F・V・ディキンズは医師・弁護士として開国直後の日本に来たこともあるイギリス人で、熊楠のロンドン滞在中は、ロンドン大学事務総長の要職にあった。
彼は最初期の日本学者でもあり、熊楠の『ネイチャー』の論文を読んで手紙を送ったことから知り合った。二人の年齢差は30歳近くあったが、ときに衝突や批判をしあいながら、年齢を越えた交わりを続けた。熊楠の帰国後も、交友は長く続いた。
熊楠は、ディキンズの日本研究を助けて文献を集め、翻訳を手伝うなどした。ディキンズは経済面も含めた、熊楠の支援者であった。
両者の研究交流は、『方丈記』の共訳という形で実を結んでいる。熊楠への結婚祝いの手紙には「私心のない観察者」と、ディキンズは熊楠を称えている。