南方熊楠ゆかりの地を訪れました

皆さん、こんにちは。南方熊楠記念館の館長です。番所山のウコンザクラの見ごろも終わりました。コロナ禍の終息は見えない状況ですが、季節は確実に移り変わっています。

休暇の日に今まで訪れたことがなかった熊楠ゆかりの地、日高川町妹尾国有林へふらっと足を運びました。

熊楠が昭和天皇にご進講する前年の昭和三年十月から翌年一月まで山籠もりし、菌類や粘菌を採集した場所です。

車で田辺から虎ケ峰を経由、龍神村に入り日高川沿いの国道を下り、途中、日高川支流の猪谷川を遡って約2時間半で到着しました。しかし、当時は道や交通機関も整備されておらず、この辺境の地、妹尾国有林までたどり着くまで本当にたいへんだっただろうと想像します。また、たどり着いてから三ヶ月間、寒さや孤独と闘いながら原生林の中に籠もり採集したことも想像を絶します。

現在、妹尾国有林はスギ、ヒノキが植栽され昔の面影はありませんが、植林のできない場所に僅かに残された植生をみると、当時は鬱蒼とした原生林が広がり人を寄せ付けない場所だったことが想像できます。

妹尾国有林へ行く途中にある美山療養温泉館の対岸広場には、熊楠と親しい友だった羽山兄弟の妹が嫁いだ先、山田家(当時の御坊村塩屋)に残された色紙を写した碑「妹尾即事」が建立されています。

「妹尾即事」

われ九歳の程より菌学に志さし 内外諸方を歴訪して息まず 今六拾三に及んで此地に来り 寒苦を忍び研究す これが何の役に立つ事か自らも知らず

苔の下に 埋もれぬものや 蟹乃甲

熊楠

この「妹尾即事」は山籠もりした時、熊楠自身の気持ちがしみじみと深く表現されています。

妹尾国有林をあとにし、さらに日高川沿いの国道を下り、熊楠の父の郷である日高川町入野にある大山神社跡(大山)を臨める場所に立ち寄りました。大山神社は熊楠が神社合祀反対運動で奮闘したにも関わらず廃社合祀になりました。現在、大山神社跡周辺はミカン畑になり、神社があった場所は僅かに段所になっていることが確認できます。

妹尾即事の碑
はさみのとれた沢ガニの絵 碑の裏 現在の妹尾国有林
大山(大山神社跡)